(本レビューの形式をわかりやすく工夫してみました。)
小川洋子著『ことり』について
人間の言葉は話せないけれど、小鳥のさえずりを理解する兄と、兄の言葉を唯一わかる弟。二人は支え合ってひっそりと行きていく。やがて兄はなくなり、弟は「小鳥の小父さん」と人々に呼ばれて…。慎み深い兄弟の一生を描く、優しく切ない、著者の会心作。
出典元:小川洋子・著『ことり』朝日新聞出版 裏表紙
小川洋子氏は『博士の愛した数式』(2004本屋大賞)の作者。映画化されてましたね。
【感想】超リアルな描写にわくわくしたり落ち込んだりが激しい。
鳥好きなので「小鳥語」に興味津々
本屋で表紙を見て、衝動買いした。
「ことり」と言えばかわいらしい表紙であっていいはずなのに、この意味深な雰囲気の表紙が気になる。
小鳥の言葉がわかるってどんな人だろう。
読んでいくうちに小鳥と話せる人がいてもいいな、と思えてくる。
逆に小鳥語を話せない人がいないなんて断言できない。実際いるかもしれないし、ちょっとうらやましくもある。
前半は小鳥語を話せるお兄さんと、兄の言葉が唯一わかる弟の生活エピソードがリアルでおもしろかった。
お兄さんが変わった人扱いされても、弟がお兄さんのことが大好きで優しいので救われる。
もし今後、実際に小鳥と話せるという人と出会ったとしても「あぁ、小鳥語ね」と受け入れられそうだ。
小鳥の描写にキュンとくる
「余計なものが映らないよう、奥底の一点にまで黒さが満ちた彼らの目に」
出典元:小川洋子・著『ことり』朝日新聞出版 p132
物語のあちこちに小鳥のエピソードがたくさん散りばめられている。
そのたびに小鳥のたたずまいや仕草を愛おしく思い、尊敬する表現で繊細に描かれている。
鳥好きの私はそういう部分が読んでいて特に楽しかった。
後半は「小鳥の小父さん」の生活の裏側
後半は弟が「小鳥の小父さん」と呼ばれるようになってからの話だ。
子供の頃、近所や学校で見かける通称「〇〇おじさん」や「〇〇おばさん」というちょっと謎の人がいたのだけど、ああいう人のことかなと思って読んだ。
私が子供の時は、作中に出てくる子供のようになんとも思わず接していたけれど、周りの大人からすると変わってる人だったんだろうなと思った。
しかし、〇〇おじさん本人側に立ってこの物語を読むと、自分が良いと思ったことを大事にしてるだけだし、筋が通ってるし優しい。
最近昔ほど何かひとつに集中してエネルギーをつぎ込めなくなってしまったな、と感じていたところに丁度この『ことり』を読んだのだけど、私と違い、この兄弟は中年になっても目の前のことに子供ほどのエネルギーで夢中になり没頭してしまう。
そんな頃が私にもあったな、と大人になってもそれができるふたりがうらやましかった。
しかし、小鳥が飛んでいってしまうシーンからはじまるし、(お兄さんも弟も本人はそれでよいかもしれないけれど)全体的にせつなくて悲しい。
感じの悪い嫌な人たちも出てくる。
描写がすごくリアルな分、やるせない気分になって後に引きずってしまう。
おすすめ度
★★★★☆
悲しい系を読んでも平気!という人にはおすすめ。
引きずってしまって私は読書後ややしょんぼりしました。
メンタルが元気なときに読もう。
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