どうも、古典と歴史・海外小説が苦手、村上春樹大好きのるうらです。
2019年映画公開もされた『マチネの終わりに』平野啓一郎著を読んだので感想を書きます。
ネタバレもあるので注意してください。
「マチネの終わりに」を読もうと思ったきっかけ
司書講座のテキストにこの本が出てきて表紙が不思議で意味深なのと「マチネ」ってなんだ?と気になっていた。
本屋に行くたびに目につく場所に置いてあり、やっぱりこの表紙きれいだな、一体何の終わりなんだろう…と「マチネ」が何なのか分からない私は表紙のイエローとブルーをじーっと見て考えるけどよく想像がつかない。かなしいのかな。でも暗くなさそう。まあテンション高い話じゃないんだろうな。くらい。
そんなとき石田ゆり子さんがテレビでこの映画の番宣をしていてラブストーリーと知る。
「40代という繊細で不安定な年齢にさしかかった男女のラブストーリーです。繊細な精神的な面がしっかり描かれていて、きっとその世代の方たちに共感していただけると思います。」
というような紹介だった。40代を「繊細で不安定」という表現で聞くのは初めてだったし、今の私にしっくりくるので読んでみたいなと思った。
そしてようやく「マチネ」の意味を調べた。
マチネとはフランス語で「昼公演」のことらしい。夜公演はソワレというらしい。ソワレだったらなんとなく聞いたことあったかもしれないけど、マチネかぁ。
世界的ギタリスト薪野とジャーナリスト洋子のラブストーリーで『マチネの終わりに』というタイトル。
どうやら「世界の終わりに」のニュアンスの「終わり」ではなさそうなので読んでみようかな。
全体的な感想
↑文庫版です。やや分厚め。
よかった。
美しくてどこまでも透きとおっている感じがした。ちょっと恥ずかしいけど他に表現がわからない…
私は美しいものよりも、面白くて楽しいものの方が好きだと思ってきたけれど、この小説を読んで美しいものも退屈じゃない、悪くないと思えた。
なにが美しいのか…とすごく考えたのだけど、、
自分が大切なものを大切にしようとした結果、不平等や理不尽なことに振りまわされてしまって立ち上がれないほど傷つくのに、それでもまた手元にある大切なものを静かに大切にしようとする姿勢。かな。
鮮やかなイエローとブルーの表紙はこの物語にぴったり。
印象的なのは冒頭の打ち上げでの会話シーン
この物語に引き込まれたのは、冒頭の薪野と洋子がコンサートの後に出会い、スタッフと一緒に洋子も打ち上げに行ったときの会話のシーンだ。
洋子が自分のおばあさんが事故にあった庭にある石は、自分が幼い頃よくままごとをして遊んでいた石だった、となんともいえない気持ちになったという話をする。
「なにもあの石でなくてもいいのに…」
という洋子に薪野のマネージャーの三谷が、その心情を理解できずによくわからないと騒ぐので洋子が説明に困っているところに、近くにいた薪野はその心情を理解してかわりに三谷に説明してくれる。
その後今度は、薪野が恒例のおもしろおかしく自分の失敗話を皆にするのだが、そのダメな人ぶりのオチを洋子に「ほんとはちがうんでしょ?」とそっと確かめられて薪野がびっくりする。
こんな空気を味わったことがあるようなないような。子供の頃の会話みたいに懐かしいような。とにかくふたりがもっといろいろ話したくなる気持ちが私にはよくわかった。このシーンでふたりのことがもっと知りたくなって結局最後まで一気読みした。
「繊細で不安定な年齢」には共感できることがいっぱい
そんな会話からこのラブストーリーははじまるのだけど、洋子は婚約している身。この物語はこんな感じでいつもタイミングが悪い。
私が学生の頃に読んだなら「そんなタイミングでそんなこと起こるってどんな確率?」と冷めてしまいそうなことも何度が起こるが、実際人生ではそういうことが何度も起こったりするのだ。
あと5分、あと1ヶ月、あれがあの日でさえなければ…今ごろ違う場所で違う人生だっただろうなと思うことがいくつかある。
また私は日本から一歩も出たことがなく、ジャーナリスト洋子のイラクでの戦地体験や難民保護の事情などはうっすら想像できる範囲でしかわからない。けれど、洋子の気持ちや行動に共感する部分が多かった。そこ怒るよねー。そうするわー。それ言うわー。と。
ひとつ違ったのは三谷のひどい告白を聞いたシーンだった。「マジ最っ低!!」などと私のように洋子は決して言わない。卑劣で浅はかなことだと何も罵倒せずに一言「あなたはそれで幸せなの?」と問うだけ。ああかっこいい。
そしてスッとチケットを返す。チケット返したらもう薪野に会うタイミングなくなるのに、それで納得できる?私ならチケットは渡さない…。でもその潔さと複雑な優しさが美しいのかな。
三谷は好きになれないけど、若いから仕方ないとも多少思えなくはない。私もそれなりに浅はかで突発的な行動をしては後悔してきた。そうやって反省しながら繊細で不安定な年頃になったのだ。
そんな三谷の年齢の頃に読んだなら「薪野も結局は三谷を選んで子供つくってんじゃん、洋子のことその程度ってことでしょ。」と思ったはずだけど、今なら洋子のことは大好きだったけどそれもあるかなぁと薪野の気持の変化もよくわかった。
「縁がある、運命的なつながり」もこの世界の理不尽さには勝てないときがある。だからとても丁寧に大切に扱ったほうがいい。
そして薪野も後から三谷に告白を聞かされるのだが、その時には三谷と子供を心から愛してしまっていて、それをもう間違いだったと思うことはできない。だからといって洋子に巡りあったこともなかったことにはできない。永遠に堂々めぐりしそうな複雑すぎる心境で、ここからどう生きていくのか…。
ラストもさわやか
さわやかにふわっと終わった。好きな感じ。
そこから薪野と洋子は長い時間、笑いながら話すのだろうなと思った。きっとふたりの特別な会話の中で美しい答えが見つかるんだろうな。
映画をみた人も小説版もぜひ。
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