るうらのペン

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又吉直樹著『東京百景』又吉さんの進化の過程に触れられる貴重な一冊。【本の感想】

又吉直樹著『東京百景』について

ピース又吉直樹、初の単独単行本を刊行!!
稀代の書生芸人が、上京してからのなにものでもない日々、そして芸人として舞台にテレビに活躍する日々を東京の風景と共に綴る。すれ違う怪しい人物たち、なんでもない美しい風景、行き場のない気持ちーー哀しく可笑しい100編の東京物語。

出典元:Rukutenブックス

 

芥川賞作家となったピース又吉さんのエッセイ。

又吉さんの小説はまだ読んでないのだけど、外出自粛で人と話す機会が減ったので、何か新しい思想に触れたいと思いエッセイを読むことに。

【感想】最初から順番に、そして最後まで読んだ方がいい。

『東京百景』なのでエッセイが100話入っているんだけど、最初の20話くらいまで読んで、正直なところこの本を買ったことを後悔しはじめた。

評論家でもなんでもない私がこんなことを言うのは大変非常に心底ほんとうに申し訳ないんだけれど、最初の20話くらいは何が伝えたいのかよくわからないまま終わるし、「百景」っていう割になんだか描かれている光景もぼんやりしてる。

この調子であと80話分作品が入ってるの…?とその時点ではがっかりした。

 

ところが22話の「1999年の立川駅北口の風景」でじーんときて、もうちょっと読もうかなと進めると、39話の「 駒場の日本近大文学館」でわくわくする。

そして後になるほど又吉さんの表現はどんどん自由になり、そこに広がる光景はくっきりと解像度が上がり、すごいスピードでおもしろさが増していく。

だから最後まで読んだほうがいい。

 

「あれが僕の東京ハイライト。」の一文が強烈に残り、自分の昔のことまで思い出してうるっとしたし、「寿ファンファーレ」も切ないけどよかった。ところどころに出てくる『リンダリンダ』で踊れないというエピソードも自分のことみたいで大好きになった。

ラストに向けてどんどん又吉さんの世界に引き込まれていくのだ。

このエッセイが書かれたのは小説『火花』が発表される数年前。

あまりにも最初の方と後半で面白さが違うので気になって調べてみたら、『火花』が発表される数年も前にこの連載がされていたことがわかった。

なんと90話目も100話目も又吉さんが小説家として有名になる前の文章だ。

それどころか、最初にじーんときた22話目の「1999年の立川駅北口の風景」なんてもっともっと前。それなのにもう面白い。

 

連載だからきっと数年にわたり書き溜められたものなんだろう。

最初の方はさぐりさぐりだったのかな。いろんな迷いとか葛藤もあったのかな。と、1年前からブログで文章を書きはじめたばかりの私はついつい自分に置き換えて考えてしまった。

そして人が成長していく過程をこんな風に感じることができる本はなかなかないので、なんだかうれしくなった。

 

さらに、このエッセイは2013年発売なんだけど、私が読んだ文庫版は2020年に発売されていて、それに伴いやや長めの書き下ろし作品が巻末に収録されている。

『火花』『劇場』『人間』と話題作を3本発表したあとの作品だ。

その書き下ろし作品が7年前よりもさらにパワーを増していてぐっと心に刺さるのだ。

又吉さんの進化の加速度がすごい。そしてうらやましい。

小説を読んでみたくなった。(読む。)

おすすめ度

★★★★☆

エッセイ集だからハラハラせず、寝る前の読書におすすめ。

と思ったんだけど、途中からうるうるしたり、いろいろ考えさせられたりして眠れなくなった。単行本は装丁がカッコイイ。

文庫で読んだけど、装丁は単行本の方が趣があっていいなぁ。

書き下ろしは文庫のみ収録。文庫版はこちら↓